治療対象の不整脈
下図はカテーテルアブレーションの適応疾患を示しています。
心臓は上下左右に4つの部屋に分かれており、上の2つの部屋のことを心房と言い、下の2つの部屋のことを心室と呼んでいます。通常は心房にある洞結節という部位から発される電気刺激が心房を興奮させて、次に房室結節という部位を通過して興奮が心室に伝わることで心房と心室が動いています。この電気刺激が伝わる経路は刺激伝導系と呼ばれており、洞結節から発されて刺激伝導系を通じて正しく心室まで伝わる状態を洞調律と呼びます。
刺激伝導系から外れた場所ではやい電気興奮が生じたり、伝導路の途中で電気刺激が空回りしたりすると頻脈性不整脈が生じます。カテーテルアブレーションは、これらの電気興奮の異常を治して洞調律を取り戻す治療法のことをいいます。
頻脈性不整脈は心房性(上室性)の不整脈と心室性の不整脈に分けられます。上室性の不整脈には心房細動、心房粗動、心房頻拍、発作性上室性頻拍、WPW症候群などがあります。上室性の不整脈では直接生命に危険を及ぶ危険性は低いですが、脈が乱れたり、はやくなったりすることによって胸の不快感、動悸、息切れが生じて日常生活に支障が生じます。
これらの不整脈を治すことで、低下していた日常生活の質を改善することができます。心室性不整脈には心室細動、心室頻拍、心室期外収縮があります。心室性不整脈のうち、特に心室頻拍・細動は、直接生命に危険を及ぶ危険性がある不整脈です。これらの不整脈に対する治療を行うことで生命予後の改善が期待できます。
アブレーション治療の概要
アブレーション治療は、頻拍の原因になる邪魔な伝導回路や異常興奮部位に対して高周波あるいは冷凍凝固による物理的ダメージを与えて、異常興奮しないようにする方法です。
アブレーション治療の実際
アブレーションは術者以外にも複数のメディカルスタッフ(看護師や臨床工学士、放射線技師)が協力しながら手技を進めていきます。手術時間はおよそ1-3時間です。
鼠径部の動静脈から診断用の電極カテーテル(数本)と治療用のアブレーションカテーテルを挿入し、心内で操作します。カテーテル操作はレントゲン装置、心内心電図、後述する三次元マッピング装置をみながら行います。診断用電極カテーテルから電気刺激を行い治療目標の不整脈を誘発したり、心内心電図で機序を診断したりすることを電気生理学検査といいます。
治療対象の部位に対してどのように治療するのかは不整脈が生じている機序により異なります(下図)。
期外収縮の場合は、最も早く興奮している部位(最早期興奮部位)を治療します。心房粗動や発作性上室性頻拍などの場合は、異常興奮を生じている回路を探して回路上にダメージを加えます。心房細動の場合は、肺静脈内に異常興奮する箇所が複数あるので肺静脈周囲を電気的に隔離して治療します(肺静脈隔離術と呼ばれています)。
アブレーションカテーテルで物理的ダメージを与えた後に効果判定を行い、終了基準に達していれば手術は終了です。術後は数時間のあいだ大腿部を伸ばしたまま動かさないで仰臥位で過ごしていただきます。安静解除になれば歩行可能です。
高周波アブレーションと冷凍凝固アブレーション
高周波アブレーションは1980年代後半から臨床使用されている方法で、高周波(通常500KHz)を用い、カテーテル先端の温度を 45-60℃に上昇させることで心筋のタンパク変性が生じさせます。
エネルギーを調整することにより瘢痕巣の大きさをコントロールしやすいという特徴があり、多くのアブレーションがこの方法で行われます。
図のように物理的ダメージの影響が及ぶ範囲はカテーテルの先端から半径3~5mm 程度の小さな範囲です。
一方、冷凍凝固アブレーション(クライオバルーンアブレーション)は2015年10月に心房細動に対する治療法として承認された方法です。
カテーテル先端のバルーン内で気化した液化亜酸化窒素ガスが組織から熱を奪い、治療効果を発現します。下図(右)は、肺静脈隔離術中のイメージです。肺静脈にバルーンをいれて冷凍凝固しています。
下図(左)は冷凍凝固によりタンパク変性が生じた心筋の断面図です。白く均一に瘢痕が形成されており、この部分には電気は通らなくなります。
高周波と冷凍凝固のどちらが優れているかというのは難しいのですが、持続時間が短く、心房が大きくなっていない心房細動の方のアブレーションはクライオバルーンアブレーションの方が、手技時間が早いため体への負担が少ないです。
術中の鎮静
心房細動などの手技時間が長めの疾患に対するアブレーションでは、疼痛緩和のため深い鎮静(麻酔薬で深く眠った状態)で行っています。特に、痛みが心配な方や睡眠時無呼吸症(いびきがひどい方)に対しては声門上デバイスを用いた気道確保を行い全身麻酔下で手技を行っています。
三次元マッピング装置
心臓カテーテル操作により治療対象部位をみつける作業のことをマッピングと言います。複雑な興奮回路をもつ不整脈では心内をくまなくマッピングする必要があります。マッピングにつかうカテーテル電極は、磁場や微小電位を用いた三次元マッピング装置によりレントゲン透視を用いずともカテーテル位置が把握できます。この装置は言わば車のナビゲーションシステムのようなもので、マッピングに必須の装置となっています
HDグリッドでのマッピング例
心房頻拍
頻拍中の右房マッピング
頻拍回路の同定
アブレーション入院の日程
手技の前日に入院していただき、翌日に手術が行われます。おおむね術後2日で退院(3泊4日)となり、退院後約1か月後に外来にきていただきます。
実施医
- 栗田 隆志(チーム責任者)
- 安岡 良文(メインオペレータ)
- 丸山 将広(メインオペレータ)
- 田中 基英
- 奥根 真楠
実績
2019年度:〇例
2020年度:〇例
準備中