心房細動による脳梗塞・抗凝固薬による出血のリスク
心房細動の患者さんは心房が小刻みに震えてしまいますので、心房内の血流が悪くなり、心房内に血のかたまり(=血栓)ができやすくなります。その血栓が流れてしまい、頭に行くと脳梗塞が起こってしまいます。心房細動を発症した患者さんの3人に1人は脳梗塞を発症すると言われております。
よって多くの心房細動患者は脳梗塞を予防するために血液をさらさらにする薬(抗凝固薬:ワーファリン、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)が必要になります。しかし、どうしても出血のリスクが増してしまい、一部の患者さんは出血によって定期的な内服は困難になります。脳出血や消化管の中で起こる出血はもちろんのこと、鼻血や内出血といった小さな出血も起こりやすくなります。
肝臓や腎臓の数値が悪いかた、アルコールをよく飲むかた、高血圧のかた、過去に脳梗塞や大出血を起こしたことのある患者さんなどが出血のリスクが高くなると言われております。そこで出血で困る患者さんは脳梗塞になるリスクをとるか出血のリスクをとるかといった議論が永く行われておりました。
左心耳閉鎖デバイス
そのような議論に終止符を打ったのがこの左心耳閉鎖デバイスです。
左心耳とは何かというと、左心房に付着しているまるで耳のような組織のことです。心房細動患者の血栓はほとんどが左心耳で形成されると言われております。つまり、心房細動患者の血栓の原因である左心耳を閉じることができれば抗凝固薬を飲まなくても、脳梗塞のリスクを抑えることができます。
現在日本で使用できる左心耳閉鎖デバイスはWATCHMAN(ウォッチマン)というデバイスでナイチノールと呼ばれる特殊な金属がメッシュ状にはりついており、左心耳の入り口に留置されます。デバイスの表面は約一か月で内皮化され永久的に閉鎖されます。世界的には10年以上前から使用され10万人を超える患者に対して治療が行われてきております。
経皮的左心耳閉鎖術の実際
手術は全身麻酔で行いますので手術に伴う患者さんの負担はありません。
鼠径部と言われる足の付け根の静脈に管を通して手術を行いますので傷は小さくすみます。レントゲン装置と径食道エコー(食道内から心臓を観察します)を用いて安全面に最大の配慮を行います。左心耳にWARCHMANを留置して管を引き抜いて手術は終了です。
手術時間は約1時間で、当院では手術当日から歩行していただき、3泊4日で退院していただいております。
この治療のメリット・デメリット
メリット
- これまでの報告では99%の患者さんが治療後1年以内に抗凝固薬を中止することができ、ワルファリン内服と比較して後遺症を残すような脳卒中を55%減少、大出血を72%減少させたと報告されてます。
デメリット
- 左心耳の形によってはこの治療が適さない可能性があります。
- 合併症として心タンポナーデやデバイス塞栓と言ったリスクがわずかながらあります。
- 抗血小板薬という少し弱いさらさらになる薬の服用が必要になります。
- また心房細動自体を治療する方法ではありません。そのような治療法を希望する場合はカテーテルアブレーションという方法があります。
経皮的左心耳閉鎖デバイスが勧められる患者さん
抗凝固薬の内服が勧められる心房細動患者さんの中で
①出血リスクの高い患者
②実際に出血を起こした患者
になります。
興味がある方はかかりつけの医師と相談の上、当科まで来院ください。
実施医
- 中澤 学 (実施医)
- 水谷 一輝 (実施医)
- 丸山 将広 (実施医)
- 河村 尚幸
- 田中 基英
- 三好 達也(心エコー医)
- 松添 弘樹(心エコー医)
- 吉田 彩乃 (心エコー医)
- 副島 奈央子(心エコー医)
実績
2019年度:〇例
2020年度:〇例